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検査の標準化 vol.3(2000年投稿文) [Tea-break]

3.業務目標に向けてどう取り組むのか
 この項では業務目標に向けてどの様に検査室として取り組めばよいのか、具体例を述べたいと思います。施設内における取り組みにおいては他部門との連携について様々な問題点が生じると思われ、また他施設との連携においては各施設事情があり、標準となるレベルをどこに合わせるか落し所が問題になります。

(1) 効率的かつ機能的な業務を行い、医療の質を落とさないためには?
 経済性、機能性、医療性をバランスよく保持した業務を遂行するためには、無駄を極力省いた業務改善が必須となります。この業務改善は、検査科内にとどまらず他部門との深い連携を持ち、病院全体としての問題としてとらえなければ意味がないでしょう。検査科内および他部門との連携における取り組みの具体例をあげてみます。
①積極的かつ効率的な業務改善
 現業務を細部にわたりすべて洗い出し、無駄がないか検証し必要であれば業務の再構築をおこなう。また、スタッフのレベル底上げと意識統一をはかり、クリティカルパスへの積極的な参画を目指した良質な検査マニュアルや検査運用マニュアルを作成する。このことは、検体検査管理加算や認定病院申請のためにも必要である。
②情報収集・発信基地としての役割
 電子掲示板(院内LAN上)や検査通報などの媒体を利用し、情報収集並びに発信を積極的におこない、院内他部門との情報交換、意識統一をはかる。
③臨床検査運営委員会などの設置
 実務担当者出席による会議を実施し、より具体的な討議による業務の相互理解と活性化をはかる。
④検査依頼に対するフィ-ドバック
 医局・看護部との連携を密にし検査依頼情報や患者情報を収集することにより、臨床的付加価値の高い検査デ-タを供給可能とし、より効率的な無駄のない検査依頼体制確立に努める。
⑤会計課物流管理部門との連携
 試薬・消耗品等のマスタ-ファイルを一元化(デ-タベ-ス化)し、物流管理部門との連携により物品管理を徹底させ、廃棄率を極力下げる。また、機器整備管理簿の作成により、検査機器管理の詳細な把握と運用に努める。
⑥患者サ-ビス向上(外来検査迅速性の追求、日帰り人間ドックへの対応)
 外来診察待ち時間内における検査結果報告をおこない、疾患の早期発見早期治療が可能となるべく、また、日帰り人間ドックにも対応できるような検査室体制確立に努める。
⑦医事課との連携
 検査点数取りもれ、保険点数解釈の見解相違などを防ぐため、共通したマスタ-ファイルを使用すべきであるが、院内運用として変換テ-ブル等を使用し互換性を持たせるのも一手法であると考える。また、依頼検査項目の正確な把握をおこない、有効なセット項目の設定や外注依頼項目の見直しを含めた直接運営にかかわる事項に関し職場間相互の連絡会議などを設立する。

(2) 医療過誤、事故を防止するためには?
 人間はミスを犯すものであるといった発想において医療過誤、事故を完全にゼロにすることは不可能といえます。しかし、なぜ医療過誤や事故が起きたのか原因を究明し、ミスをチェックできるようなシステムや、ミスが結果発生に結びつかないシステムの構築を目指すことが重要です。そのため、インシデント・アクシデントレポ-トを作成し、デ-タを保存・活用する必要があります。過ちや失敗をはずかしいと隠すのではなく貴重な経験として検査科全体、病院全体の財産として蓄積するといった考えに変える、いわば意識改革をおこなわなければなりません。報告されたインシデント、アクシデントの背景を検討してシステム上に問題のある時にはただちにそれを修正することにより、患者さんに、より安全で高品質の医療をご提供できるのではないでしょうか。このインシデントレポ-トは各施設事情もありますが、公式文書として使用できる共通のものでデ-タを集約し、さまざまな観点から問題点を洗い出す必要があるのではないでしょうか? 神戸病院では、検体検査部門におけるインシデントレポ-トを作成し、デ-タの蓄積をおこなっています。(別表1)
医療過誤、事故防止にむけての取り組みとしてシステムの構築が非常に重要なポイントとしてあげられます。リスク把握システム(Risk Identification System)としては3つの手法があると言われています。
① Incident Reporting System
 職員からの自発的な事故報告を待つ方法で、全事故の5~30%を把握。
② Occurrence Reporting System
 あらかじめ報告すべき事故リストを作成して、そのリストに含まれる事故が発生した時に自発的に報告するよう職員に要請する方法で、全事故の40~60%を把握。
③ Occurrence Screening System
 専門職員が病院内の各部署にでかけていき、前もって作成された基準に従い該当する症例を拾いあげてくる方法で、全事故の80~85%を把握。

 このように、インシデントレポ-トの提出を義務づけたとしても、全事故の半分程度しか把握することができず安全な体制を患者さんにご提供するにはまだまだといえます。しかしながらデ-タを蓄積し、次世代のシステムを構築するための基礎資料ともなるわけですから、避けては通れないものであると考えます。また、このようなシステムは病院全体の問題ではありますが、検体検査部門におけるインシデントレポ-トはDB(デ-タベ-ス)化ならびに標準化しやすいものでありますので、検査部門が病院の中で先陣をきる必要があります。

(3) 臨床的価値の高い業務を目指すためには?
 現在各種認定技師制度があり、専門職性の追求がおこなわれています。しかし、まだまだ認定技師制度自体の認識が、というよりも臨床検査技師自体の認識が世間一般では浅いのではないでしょうか。
 以前、検査技師には幅広い知識で何でもこなせるGeneralistの養成が求められていました。しかし、Generalistが医療の進歩のみならず検査機器、検査試薬、コンピュ-タ-などの技術革新などにすべて対応していけるでしょうか? また、臨床的付加価値の高い検査デ-タを供給できるでしょうか?
 いま臨床検査技師には、幅広い知識の基盤を持っておりその上で最低二つの秀でた分野を有している、すなわちGeneralistでかつSpecialistとしての人材が要求されているのです。
さて話を元に戻しますと、臨床的価値の高い検査デ-タとはどのようなものでしょうか?
① 診断を決定しうる必要な検査デ-タ(必要なデ-タを迅速かつ正確に)
② 視覚に訴える理解しやすい検査デ-タ(臨床はもちろん、患者さんに対しても)
③ 他施設との互換性の高い検査デ-タ
といったものであると思います。良質な検査デ-タを臨床や患者さんにご提供してこそ、我々の存在意義があるといえるのではないでしょうか?
 臨床的付加価値の前に検査デ-タに精度保証をつけるといった問題が発生します。しかしながらたとえば自動分析装置のメンテナンスや精度管理を運用マニュアル通りにおこなったうえで、臨床からの依頼のままに検査をおこない自動分析器から出力されたそのままを報告したとします。このような業務だけでは我々の業務ではないはずです。出力されたデ-タをしっかりと読む目も大事でしょうし、その患者さんにとって本当に診断に必要な検査かどうかを迅速に判断できる能力も求められるのではと思います。そういった部分をシステム化するのは非常に困難ですが、EBM(Evidenced Based Medicine)をうまく取り入れられるようなシステムを構築していくことも重要なポイントとなるのではないでしょうか?
 臨床的付加価値のある検査デ-タを供給するためには、検査デ-タを一元化し検査システムや病院情報システムにおいて有効活用をはかり、常に検査室側から積極的に情報を発信しつづける必要があります。そういった他部門との積極的な情報交換や交流は病院の活性化につながるのではないでしょうか。
 他施設との互換性の高いデ-タ、すなわち検査デ-タの標準化に向けて、自施設で取り組まねばならないポイントをあげますと、 ①報告単位、②マスタ-コ-ド(検査システム)、③精度管理手法、④検査法(及び基準値設定)、⑤ネットワ-クの整備、⑥院内他部門との整合、⑦病院情報システムとの整合、と非常に多くの課題をかかえています。この課題については次項で述べたいと思います。

(4) 情報開示に耐えうる良質のデ-タを供給するためには?
 前項でも述べましたように、情報公開に耐えうる良質のデ-タを供給するためには複数の問題をクリアしないとなりません。①~⑦の各項目についてご説明をします。
① 報告単位
 デ-タの統一化のためにはまず考えねばならないことです。現状において各施設におけるデ-タの報告単位はまちまちであり、標準化が急がれます。国内のみならず国際的なレベルでの標準化を目指すのであればSI(System of International)単位を使用し標準化をすすめるべきであるとされています。
② マスタ-コ-ド
 病院情報システムや検査システムなど基本となるマスタ-の問題です。院内のみの運用であれば、マスタ-コ-ドを統一化する必要はあまりないかもしれません(外注部門などを除いて)。しかしながら全国をオンラインで結び電子カルテ化することや、カルテ開示をおこなう際に全国共通のマスタ-コ-ド(検査コ-ド)を使用しデ-タの共有化や統一規格化をおこなうことは必須事項といえます。現在検査コ-ドに採用される有力なものとして、JLAC10(日本臨床病理学会臨床検査項目分類コ-ド第10回改訂)がありますが、コ-ド桁数が多く(17桁)院内においてそのままコ-ドを採用し運用をおこなうには現実的ではありません。まずは各施設におけるマスタ-コ-ド(検査コ-ド)を整理する必要があり、そのうえで変換テ-ブルを用いて院内コ-ドとJLAC10とのマッチングをはかることが現実的です。
③ 精度管理手法
 精度保証されたデ-タを臨床(患者さん)に提供するためには、ある一定の管理限界値を設定し日常の精度管理を実施することが必要です。しかし精度管理手法や、その許容範囲については各施設内で独自に設定しているのが現状でしょう。
 精度管理手法の標準化に向けて取り組むべきポイントは、
 1) 日常の内部精度管理の方法
  1. 管理プログラム
  2. 管理血清を用いる精度管理技法(方法および間隔)
  3. 患者検体を用いる精度管理技法
 2) 検量の間隔
  1. 濃度項目
  2. 酵素項目
   a. 実測K‐factor
   b. JSCC標準化対応法酵素項目
 3) 管理血清の選択理由
 4) 管理限界値の設定方法
 5) 管理限界値をはずれた場合の対応方法
 などがあげられます。
④ 検査法(及び基準値設定)
 検査法についてはあらゆる場所で討議がなされていますので、この場では略させていただきます。基準値の設定については、検査デ-タの標準化とともに処理されるべきもので、各施設がまちまちのものでは意味がありません。
 また最近、各都道府県技師会などで標準化に向けての取り組み強化がなされており、国立病院・療養所の検査室も標準化に向けて積極的な最新情報や意見の交換などをおこなわねばなりません。
⑤ ネットワ-クの整備
 ネットワ-クについての技術的な事柄はここでは述べませんが、ネットワ-クについての基本的な分類や内容などについては知っておく必要があります。なぜなら、医療の大変革がおこなわれようとしている現状の中では医療機関においても、IT(Information Technology)が重要なポイントとなってきているからなのですが、非常に経済状態が困窮化している情勢では、何が必要か必要でないかの見極めを明確化できる能力がユ-ザ-側にも求められるためです。
 さて、情報ネットワ-クについて触れたいと思います。情報ネットワ-クとは、「情報を共有することであり、その構築により生まれる新しい形のコミュニケ-ション」と定義されます。この情報ネットワ-クがもたらしてくれるもの、すなわち情報を共有化することにより得られるメリットは、
1) 個人がかかえ埋もれていた経験やノウハウを組織資産として活用できること
2) 情報等を公開することにより、資料作成の重複を減らすことができること
3) 組織トップの考え方や方針を直接職員に伝達できるため、活性化につながること

といったものがあり、「情報共有化」=「情報管理」ともいえます。またこのコミュニケ-ションは、
1) 会議型 2)通達型 3)対話型 に分類され、組織内においてしばしば問題となるのは、2)の通達型がうまく機能しないことにあります。
 これらのネットワ-クコミュニケ-ションの特徴、利点について述べ、なぜネットワ-クを整備する必要があるのかというまとめにしたいと思います。ネットワ-クコミュニケ-ションの特徴、利点として次の5点があげられます。
1) 双方向性 : これまでのメディアは多くの情報を受け取るだけのものであった(たとえば、テレビ、ラジオ)。その受け取り手は不特定多数のものであったが、ネットワ-クコミュニケ-ションでは相手を特定できることにある。また必要な時に必要な情報を相手の時間的都合を考えることなく送る事が出来ることも大きな特徴の一つである(特定の相手にはメ-ル、特定のグル-プにはメ-リングリストなど)。
2) 情報のディジタル化 : ネットワ-クで使用する情報はディジタルであり、その保存、検索、再利用は容易であり、また安価に共有可能である。
3) 超地域性 : 日本国中のみならず、世界全帯を対象に地域の差をこえてディスカッションすることが可能である。
4) 超階層性 : 所属、職種、役職などをこえてのディスカッションが可能であること(たとえば、ホスプネット研究会や国立病院・療養所メ-リングリストなど)。
5) 更新の容易性 : 時間経過とともに変化しない情報もあるが、変化する情報については迅速かつ安価に更新が可能であること。
⑥ 院内他部門との整合、病院情報システムとの整合
 「チ-ム医療」の推進が叫ばれる中で、検査部門のみで行う業務というものはもはや存在しないのではないでしょうか? 現在の医療においては院内他部門との連携を取り、情報交換をおこなったうえでの調整作業が非常に重要かつ困難なテ-マとなっていますし、検査部門内でクロ-ズ化した検査情報システムの存在はもはや意味をなさず、情報を公開してデ-タを有効活用するためにも病院情報システムとの整合を取る必要があります(ただし、どのシステムにおいても完全なシステムというものはあり得ないので、独立運用可能な形態とすべきです)。


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