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臨床検査に触れていただくコーナー⑤ ~検査データ標準化に関わること2~ 2010年12月作成 [Gam's Channel]


【はじめに】
 前号では政策医療の概要と臨床検査標準化の必要性につき述べてまいりましたが、今号では具体的な実例を挙げてお示ししていきたいと思います。なお掲載する内容は平成20年8月に国立病院臨床検査技師協会本部誌に投稿したものを、一部抜粋、一部改編してお届けします。なお政策医療臨床検査連絡会(以下連絡会)では、平成14年度・平成16年度・平成19年度・平成21年度の4回、国立病院機構、国立高度専門医療研究センター、国立ハンセン療養所等(以下国立医療機関)に対し臨床検査データの互換性に関するサーベイランスを実施しております。

 前号でもお伝えしましたが、生化学・免疫検査領域の主要項目において国立医療機関においては、ほぼ標準化が達成されている状況となっています。ただしこれは本邦における指定された測定原理、測定試薬、標準物質を使用した場合のみであり、それ以外のものを使用して測定した場合には保証されません。

 しかしこれ以外の項目、例えば、内分泌・代謝性疾患関連項目や、循環器疾患関連項目、さらには腫瘍マーカー、ホルモンなど診療に密接に関わりのある項目についての標準化は程遠い状態で、このことについては前号にて少し触れたところです。今号では連絡会沿革と活動内容をご紹介し、平成21年度助成研究内容を一部、具体的な例を挙げてご説明したいと思います。


【連絡会の経緯】
平成14年度・・・連絡会発足。起案趣意書作成。
平成15年度・・・ホルモン3項目調査実施と内分泌専門医研修会(国立京都病院)発表。各種投稿文、次期サーベイランス準備。
平成16年度17年度・・・ホルモン3項目+内分泌・代謝性疾患関連項目23項目全国サーベイランス実施(平成17年1月サーベイランス実施、平成17年3月一次報告書関連施設配布、平成17年10月総合医学会発表、平成17年11月日本糖尿病学会地方会発表)。同研究は平成16年度厚生労働省基盤研究ネットワーク・医療技術等研究支援。


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平成18年度・・・平成18年5月日本糖尿病学会学術集会発表、平成18年6月国臨協近畿支部学会発表、各種投稿文、依頼書作成
平成19年度・・・平成19年10月内分泌・代謝性疾患関連26項目+循環器病疾患関連項目11項目近畿ブロック21施設サーベイランス実施(平成19年11月総合医学会発表、各種投稿文、依頼書作成)。
平成20年度・・・平成20年6月国臨協近畿支部学会発表、平成20年11月総合医学会発表(定点調査報告)。
平成21年度・・・平成21年度政策医療振興財団研究助成、平成21年8月内分泌・代謝性疾患関連26項目、循環器疾患関連項目11項目、腫瘍マーカー5項目、計42項目ならびに外部委託検査設問につき、国立病院関連施設166施設を対象に全国サーベイランス実施。同研究とは別途、全国外部委託検査業者対象に臨床検査委託業者第一次調査同年9月に実施。同10月開催第63回国立病院総合医学会において、一次報告「第1報 外部委託検査」「第2報 循環器疾患関連検査」実施。
平成22年度・・・平成22年度政策医療振興財団研究助成(外部委託検査客観的評価指標運用による臨床検査データ標準化推進がもたらす経済的・医療的両側面に対する改善効果検証)、11月開催第64回国立病院総合医学会において一次報告。


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【平成21年度助成研究より】
 連絡会が経年的にサーベイランスを行っている検査項目は、前述のように多岐にわたっていますが、院内で検査されているものばかりではなく、外部委託検査に依存しているものが多々あります。臨床医からすると、院内であろうが院外であろうが同じ検査データなのですが、残念ながら院内従事する臨床検査技師にとっては外部委託検査のデータに対する関心度は低く、外部委託先から報告された検査結果は多くの場合チェックされることなく臨床医のもとに返却されます。また近年、治験・研究分野において外部委託検査を利用されることが非常に多くなっているのが実情ですが、この外部委託検査の品質について問われることは稀ではないでしょうか?連絡会が着目しているのはまさにこの点であり、国内外問わず使用に耐え得る高品質な臨床検査データを提供していきたいとの考えです。しかし業界全体の言わば大改革が必要ですが、まずは現状調査を行い、啓蒙活動を推進しているところです。

 さて平成21年度助成研究では、内分泌代謝性疾患、循環器疾患、腫瘍マーカー等42項目にわたる全国サーベイランスを行いましたが、全てをこの紙面上でご紹介出来ませんので、循環器疾患関連11項目のうち、その中でも特に問題の大きな3項目につきご紹介します。

 まず凝固線溶系項目のFDPとDダイマー(DD)についてご説明します。右図に示すように、FDP、DDとも単位はμg/mLに収束傾向にあるものの測定原理や測定試薬は多種多様であり、標準化が非常に困難であることを示しています。また大手外部委託業者2社がFDPにおいて同一試薬を用いて検査を行っているにもかかわらず基準値が異なるという報告もありました。


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 次は古典的な項目でもあり心筋梗塞の指標として多くの臨床現場で用いられているCK-MBの調査結果となります。ご覧のように、報告単位や基準範囲に収束は見られず、標準化には程遠い現実が浮かび上がりました。ちなみに、平成19年度サーベイランスにおいても同様の結果となっており、非常に根深い問題であることが想像されました。


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 このように、院内実施率も高く診断に直結している検査項目であっても、また各種医療連携などで広く用いられている項目であっても、互換性が乏しい場合がかなりあり、病病間、病診間において情報交換をする際には、注意をしなければいけないということになります。


【後記】
 本稿作成は12月後半ですが、現時点では温暖の差が非常に激しく、風邪をひかれている方や体調を崩されている方が多い状況です。またノロウィルスを中心とする感染性胃腸炎やマイコプラズマ肺炎など全国的にも流行している状況です。昨年は新型インフルエンザの影響により、スタンダードプリコーション(標準予防策)が一般の方々にも浸透し、感染性胃腸炎などの発生も抑えられていたのではないでしょうか? やはり備えあれば憂いなし。基本的なことですが、手洗い、うがいの必要性を多くの患者さんにご理解いただきたいものです。ウェザーニュースなどの予報によると平成23年は大量の花粉が飛散するようですし、黄砂も例年の如くかなり飛び交う予想。さらには鳥インフルエンザの動向も気になりますし、憂鬱な春となるかもしれません。平成23年が平穏な年であることを願うばかりです。皆さんにとって、実り幸多き一年でありますように・・・

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臨床検査に触れていただくコーナー④ ~検査データ標準化に関わること1~ 2010年7月作成 [Gam's Channel]


【はじめに】
 地球温暖化の影響か、ヒートアイランド現象の影響か、今年は全国的に酷暑となり熱中症によりお亡くなりになられた方が後を絶ちませんでした。この号が発刊される頃には残暑厳しき折か、ひと段落ついている頃かは知る由もありませんが、季節に関わらず体調管理をきちんと行うには快眠、快食、快便とも言われます。くれぐれもご自愛ください。

 さて本コーナー①~③は、当院臨床検査技師長の立場として検査科のご紹介から新糖尿病診断基準などのトピック的なことをお伝えしてまいりました。今号からは、政策医療臨床検査連絡会(以下連絡会)事務局代表としての立場からお話を進めてまいりたいと思います。政策医療に関しては一般の方々のみならず、我々グループ施設のスタッフにおいてもなかなか直接的に目に触れることはできず、少々聞き慣れない言葉もあるかもしれません。今号は紙面の関係上、政策医療に関するご紹介程度の内容となりますが、出来る限りご理解いただけるよう努めますのでどうぞ宜しくお願いいたします。


【政策医療とは】
 政策医療とは、国が医療政策を担うべき医療であると厚生労働省が定めているものです。右図のように現在19医療分野があります。我々の属する独立行政法人国立病院機構や、本年4月より独立行政法人化した国立高度専門医療研究センターなど全国165施設においては、民間病院などに任せるだけでは不十分と考えられ、難病などを含む分野に特化した医療を提供するだけではなく、臨床研究、教育研修、情報発信を行っていくことを目的とした政策医療を実践しています。


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 神戸医療センターではその19分野のうち、がん、循環器病、成育医療、骨・運動器疾患、の分野を担当する施設となっています。もちろん政策医療分野以外の診療においても患者様からの信頼を得られるよう、常に医療の質向上を目指し日々努力を重ねています。

 政策医療19分野においては、それぞれの分野でネットワークが構築され、ネットワーク構成施設間における活発な情報交換、データの共有化などが行われています(政策医療ネットワーク)。


【政策医療ネットワークの問題点と課題(特にデータの有効活用といった観点から)】
 各政策医療ネットワークにおいては、臨床データや研究データの蓄積を行い構成施設で有効活用できるよう、インターネットによるネットワーク環境が整備されています。しかしながらそのデータは各政策医療ネットワーク内のみで利用されているケースが多く、各ネットワーク間における共同利用を積極的には活用されていない状況であると思われます(例:AネットとBネットはデータの相互利用がほとんど無い等)。さらに各ネットワーク内データの互換性についての議論はほとんどなされていない状態であり、各ネットワークの所有する各種データが共有資産として有効活用できるかどうか判断がつかないのが実情です。そのため非常に有益かつ貴重なデータが国家資産として有効活用されるように環境整備を行うことが火急課題となります。その課題に取り組むためには、まず臨床検査データなど数値的なデータを有効活用できる状態にするため(標準化作業)、国立病院臨床検査技師協会が特に生化学項目を中心とした標準化事業を立ち上げ全国的な検査データの統一化を推進するとともに、連絡会においては標準化が非常に遅れている項目について全国調査を平成14年度から実施し、その結果に基づき関連学会・団体に対して警鐘・提言を行っているところです。


【臨床検査データの標準化が叫ばれる背景】
 「標準化とは」広辞苑からの引用ですが、①標準に合わせること ②工業製品などの品質・形状・寸法を標準に従って統一すること ③これにより互換性を高めるもの とされています。

 現在、臨床検査データは医療の中でも特に客観性の高いものとして利用されており、EBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づいた医療)を実践するためには、無くてはならない必須のものとして位置付けられていることは、皆さんも良くご存じのことと思います。しかし20数年以前からこの臨床検査データについての施設間差が再々取り上げられてきておりますが、臨床検査データの標準化が具体化してきたのは、生化学検査を中心とした検査項目においてこの十年間のこととなっています。

 では臨床検査データを標準化することにより、どのような効果が得られるのか、そのことについて触れてみたいと思います。
 前述したEBMの根幹でもある臨床検査データを標準化すなわち互換性を高めることにより、重複検査を削減することにも繋がるでしょうし、治験・研究分野など比較検討する際に大規模研究が可能となるなど様々なメリットが発生します。更に互換性を向上させることにより、検査データの品質が均一化し向上することも容易に想像できます。


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 当院のような国の施策である「政策医療連携」と地域に根差した「地域医療連携」の両側面を持つ施設においては、国立病院機構などのグループ施設との互換性はもとより、地域の医療施設との互換性を向上させていかなければなりませんが、全ての検査項目が院内で実施されているわけではないことは良くご存じのことと思います。かなり昔は検査の種類も数も少なかったため、自前で検査を行っている施設が多かったのですが、検査方法や内容が多様化するとともに、医療経済の破綻などと叫ばれコストパフォーマンスを強く求められる時代背景となってきていますので、採算性の合わない検査は外部に依頼を行う、いわゆる外部委託検査に依存する割合がますます拡大している状況となっています。ですから病院施設だけではなく外部委託検査業者に対する互換性や検査精度を含めた品質管理を行わなければならない状況となっています。


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 現在生化学免疫分野の主要項目については、かなり標準化が達成されている状況ですが、標準化に程遠いと思われる検査項目に注目しその現状がどの様になっているのかを知ることが非常に大きな課題となります。私が事務局を務める連絡会(H14年発足)では、標準化に程遠いと思われる検査項目(ホルモン、腫瘍マーカー、糖尿病関連項目、循環器疾患関連項目など)に着目し、外部委託検査の状況把握とともに過去3回の全国調査を実施してきております。この内容につきましてはまた別の機会にお話させていただきます。


【後記】
 今回は一般的にはあまり触れられない政策医療という分野をご紹介しました。

 近年チーム医療なる連携医療の推進が叫ばれ、診療報酬上にも大きな影響を及ぼしておりますが、連携医療を推進する第一歩は理解し合うことにより強固な協力体制を構築することであると思います。理解していただくためには、様々な情報を共有化し有効活用することが必須であり、そういった思いを込めて今回のような内容としました。まだまだ断片的かつ消化不良的な内容ではありますが、今後継続して情報発信を続けてまいります。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。なお最新の医療情報提供をサイトの方でも行っておりますので、宜しければご参考までに。
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臨床検査に触れていただくコーナー③ ~糖尿病診断基準改訂について~ 2010年2月作成 [Gam's Channel]


【はじめに】
 今年の冬は非常に厳しい寒さでした。朝晩の寒暖差も激しく風邪をひかれたり、新型インフルエンザ、感染性胃腸炎の流行などと相まって、体調管理が困難であったのではないでしょうか?この広報誌が 発刊される頃には「春」が到来しかけているかもしれませんが、ゴールデンウィーク辺りまでは朝晩の冷え込みが厳しい時もあろうかと思います。くれぐれもご自愛ください。

 さて、昨年11月日本糖尿病学会において「糖尿病の診断基準とHbA1c(ヘモグロビンA1c)の国際標準化に関するシンポジウム」が開催され、10年振りに糖尿病診断基準が改訂される見込みとなりました。本号では、その内容をご説明するとともに、臨床検査データの標準化についても少し触れてみたいと思います。本号も最後までお読みいただければ幸いです。



【糖尿病の新しい診断基準(案) 日本糖尿病学会2009年11月1日発表】
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上図が今回改訂による新診断基準となります。

 下図はこれまでの糖尿病診断基準ですが、これまでの診断基準においてHbA1cは補助的な診断基準に過ぎませんでした。今回の改訂によりHbA1cの糖尿病型診断における有意性が認められ、診断基準として明記されました。

 またこれまでのHbA1cの基準では6.5%以上を糖尿病型の参考基準としていたのですが、今回の 10年振りの改訂により6.1%以上と厳しい基準となっている点が大きな変更点です(血糖値の基準に変更はありません)。


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【HbA1cの話題提供・・・国際標準化の流れ】
 現在、世界では、①日本で使用しているJDS(Japan Diabetes Society)、②米国を中心として使用しているNGSP(National Glycohemoblobin Standardization Program)、③欧州を中心に今後世界的標準となることが予定されているIFCC(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine)、の三つのHbA1cの値(基準)が存在しています。各基準で使用している単位は、JDSとNGSPでは%、IFCCではmmol/molとなっています。世界の地域により単位や値がバラバラであることにお気づきだと思います。この三つの基準間では換算式によりそれぞれの互換性が保たれる仕組みとなっています。


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 世界的には、前述しましたようにIFCC値に統一される予定となっていますが、日本においては、4.3~5.8%といったHbA1cの基準範囲や単位が普及しています。そのため基準範囲や単位を同時に変更してしまうと、臨床や患者さんの間で大混乱となる可能性が高く、まずは米国のNGSP値に変更し、普及した段階でIFCC値に変更する二段階で国際標準がなされる予定となっています。

 なお、①NGSP値はJDSの値に比べ約0.4%高い値で示されること、②今回の糖尿病診断基準改訂によりHbA1cの糖尿病型基準が6.1%に引き下げられること、③日本国内ではJDS値とNGSP値の併記を行うことにより非常に分かり難い内容となること、などにより臨床現場における混乱を避けるための分かりやすい患者さんへのご説明が重要となってきます。その意味からも本広報をご活用いただければ幸いです。


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 また前述のような検査データの国際標準化の流れはHbA1cだけではなく、その他様々な項目にも到来しています。ただし、それ以前の問題として日本国内においては、生化学、免疫項目の一部しか標準化、すなわち日本国内どこでも同じ検査データが得られるといった状態にはなっていないのが現状です。このような大きな問題についても今後、お知らせしていきたいと考えています。


【後記】
 今回の記事内容はまだ確定のものではなく、予定段階であることをあらかじめご了承ください。また「分かりやすく気軽に臨床検査に触れていただく」には、少々難しい内容であったかもしれません。  言葉足らずの部分もあろうかと思いますが、ご意見、ご質問など、どしどしいただければ幸いです。

 前回の記事において、日本医師会臨床検査精度管理調査(略して、日医サーベイ)のことに少し触れましたが、平成21年度の成績が返ってまいりました。結果は100点満点中の99.8点。我々のお出しする臨床検査データは日本医師会のお墨付き、すなわち高品質だとの太鼓判をいただきました。この場をお借りしてご報告させていただくとともに、安心して当センターの臨床検査をご活用いただきますようお願いいたします。

 次号はトピック的なことがあれば、その内容を最優先にお伝えしたいと思います。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。


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臨床検査に触れていただくコーナー② ~検体の取扱いについて~ 2009年11月作成 [Gam's Channel]


【はじめに】
 皆さん、こんにちは。臨床検査技師長の新井です。着任した時には新緑の候だったのですが、季節は移り変わり、すっかり冬となりました。今年の冬は例年と異なり、季節型インフルエンザは影を潜め、新型インフルエンザが猛威をふるっています。ワクチン接種も勿論のことですが、「感染を未然に防ぐ」ことが一番大切なことです。既に皆さんもご承知のスタンダードプリコーション、いわゆる標準予防策ですが、「患者の血液・体液や患者から分泌排泄される湿性物質(尿・痰・便・膿)、患者の創傷、粘膜に触れる場合は感染症の恐れがある」とみなして対応する方法、と定義されます。一番大切なことは、これら感染の可能性のあるものに触れる時には直接触れないようにする、もし触れてしまったら正しい方法で手洗いを行う、ことです。人からもらわない、またうつさない、を常に意識していきたいですね。

 臨床検査は、検体検査にせよ生理検査にせよ、全ての業務において非常に危険な作業と向き合う業務です。また非常に広い分野をカバーしていますので、色々なお話が今後も出来ればと思います。


【ちょっと雑学:精度管理は検体の採取、取扱いから】
 前回は基準範囲と正常範囲の違い、検査データには生理的変動がある、と言うことをお伝えしました。今回は少しだけ「精度管理」に触れ、その管理の中には検体の採取方法や取扱いが含まれるということをお伝えしたいと思います。さて、皆さんは、「精度管理」とはどのようなものかご存知でしょうか?

 「精度管理」とは、非常に簡潔にいうと、「検体測定に際して、その測定結果が正しい値となるように管理するもの」です。精度管理には「内部精度管理」と「外部精度管理」があります。「内部精度管理」は主としてどの程度精密に測定できているか、「外部精度管理」は他の施設と比較してバラツキなく測定できているか、ということを主たる目的としています。「外部精度管理」のもっとも有名なものに、年1回開催される「日本医師会臨床検査精度管理調査(
http://www.jmaqc.jp/index.php)」があり、平成21年度は第43回目開催となります。医療業界で唯一ともいえる医療の質を点数で表すものです。

 ではタイトルにも書きました、「精度管理は検体の採取、取り扱いから」についてお話を進めます。

 採血時におけるお話はまた別の機会としまして、血液を採取したあと検査値はどのように変化していくのか、について述べてまいります。

 血液の成分は、赤血球や白血球など細胞成分と、血清もしくは血漿など液状成分とに分けられます。この細胞成分と、液状成分とでは、検査項目により含まれている濃度・量が異なるため、血液の取り扱い方によって、検査項目の測定値に差を生じます。この内容については後ほど実例を含めてご説明いたします。


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 上図に示しますように、検査項目によっては、放置する環境によって測定値が変化してしまいます。例えば、多くの酵素項目は蛋白成分で出来ていますので、熱に弱く、血液を採取したあと冷蔵保存、冷凍保存をしないと、蛋白成分が変化を起こし、その結果測定値が下がったりします。また血液中の酸素や二酸化炭素を測定する検査では、空気中にさらすことにより空気中の酸素や二酸化炭素を取り込み、測定値が変化します。黄疸の指標となるビリルビンは、光、特に紫外線により分解される性質を持ち、光を遮らないと測定値が下がります。新生児黄疸などで光線療法(紫外線療法)などを行うのは、ビリルビンの性質を逆に利用したものです。

 次に血液中のブドウ糖、いわゆる血糖値について具体例を挙げてご説明します。

 一般的に血液検査というと、静脈採血によるものが大部分ですが、血液ガスなどに代表される動脈採血を行う場合や、自己血糖測定などの場合、指先や掌から採血を行う場合があります。


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 上図に示しますように、血糖値は、動脈血の方が静脈血よりも血糖値は高いとされます。これはご説明を簡略化すると、動脈は栄養や酸素等を末梢組織に運搬するパイプラインであり、静脈は老廃物や二酸化炭素等を運搬するパイプラインだと言えます。すなわち、動脈の血糖値≒静脈の血糖値+末梢組織で消費した血糖値 ということになり、動脈と静脈の濃度差が生じます。ですから、指先や掌の血糖値は動脈の血糖値と静脈の血糖値の間ということになります。

 また細胞成分中いわゆる赤血球中のブドウ糖濃度と、液状成分いわゆる血清(血漿)中のブドウ糖濃度では差があります。一般的に血清(血漿)中ブドウ糖濃度よりも赤血球中ブドウ糖濃度の方が低いため、全血中ブドウ糖濃度の方が血清(血漿)中ブドウ糖濃度よりも低くなります。


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 血液中のブドウ糖濃度は全血のまま放置すると、時間経過とともに低下してきます。これは赤血球中の酵素がブドウ糖を分解消費することが原因です。

 このブドウ糖濃度低下を防ぐためには、大きく分けて二つの方法があります。一つ目は、採血後直ちに赤血球と液状成分を分離してしまうこと。二つ目は、赤血球中の酵素を妨害(阻害)するような薬剤を添加することです。一般的には二つ目の方法が取られていることが多いと思われます。


【後記】
 ブドウ糖を具体例としてご説明をしましたが、検査項目の特性を知ることは、検査値の質向上に対し直接的に関係することとなります。「精度管理は検体の採取、取り扱いから」というテーマの意味がお分かりになったことと思います。これからも臨床検査技師の視点で多くの有益な情報をご提供してまいります。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。


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臨床検査に触れていただくコーナー① ~研究検査科のご案内~ 2009年7月作成 [Gam's Channel]


【ご紹介】
 平成21年4月より国立循環器病センターからまいりました臨床検査技師長の新井(あらい)と申します。この広報誌では、皆さんにおなじみとは言いがたい「臨床検査と臨床検査技師」についてご紹介できればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

 まずはどのようなメンバーで業務を行っているのかのご紹介をさせていただきます・・・当センター研究検査科(臨床検査部門)は、研究検査科長(病理診断医)1名と臨床検査技師13名、合わせて14名で組織構成されており、院内各部門と連携を取りながら日夜臨床検査業務に励んでいます。

 さて皆さんは「臨床検査」とはどのような業務を行っているのかご存知でしょうか?

 「臨床検査」の関わる範囲は非常に広いのですが、大きく二つに分けられます。まず一つ目は患者さんからいただいた検体、すなわち血液、尿、便、喀痰、組織などの検査を行う「検体検査分野」、二つ目は心電図や超音波など患者さんに直接接し検査を行う「生理検査分野」があります。本館1階部分では皆さんにもおなじみの尿検査、便検査(合わせて一般検査といいます)とともに心電図検査を行っており、本館2階南部分ではその他多くの臨床検査(血液検査、輸血検査、病理検査、細菌検査、超音波検査など)を行っています。

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 このような多くの分野に分かれている臨床検査部門ですが、生理検査分野と一般検査など皆さんに直接お会いする分野以外、なかなか目に触れることの少ないのが残念ながらの現状です。この広報誌を通じて皆さんに「臨床検査と臨床検査技師」に触れていただき、私どもから有益で的確な情報をお届けできればと思います。多くの方々から「臨床検査と臨床検査技師」に対し、ご意見、ご感想、ご要望などをいただければ幸いです。

【ちょっと雑学:基準範囲と正常範囲】
 皆さんは、「基準範囲」と「正常範囲」という言葉を色々なところで耳にされたことがあると思います。似て非なるもの。この二つの意味の違いをご存じでしょうか?

 「基準範囲」の求め方は、問診を行い健康・正常と思われる方の検査をまず行います(下図参照)。その結果の平均値を取り、平均値を中心に左右合わせて95%の方々のデータ範囲を「基準範囲」と呼びます(下図のような分布を正規分布と呼びます)。したがってグラフの両端2.5%+2.5%=5%の方々が基準範囲外となってしまいます。ですから「基準範囲」と「正常範囲」がもしも同じものであるとすれば、基準範囲外の5%の方々はすべて異常と判断されることになります。
さて基準範囲を外れた方々は本当に異常なのでしょうか?

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 その答えを述べる前に、検査データには「生理的変動」というものがあるということについてご説明いたします。ヒトには固有のリズムがあり、ヒトにより異なる、すなわち「性質」というものが存在します。また一日の時間の中や季節などで変化を示すものや、運動をしたり食事をしたりすることで変化を示すものがあります。よく知られるところでは、正常な方において血糖などは食事をすると約1時間後に最高値となりますが、約2時間後には食事前の値に戻ります。 ですから血糖検査などは食事をする前に採血を行わなければ安定した検査データは得られません。

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 日常生活を送る中で検査データは刻々と変化していますので、採血を行う時間によってはかなり変動を認める項目も多く、容易に基準範囲を外れることは想定できます。ちなみに先ほどの血糖で例を示しますと、空腹時における血糖の正常域は110mg/dL以下とされておりますが、正常の方でも食事後1時間後には140~160mg/dLにもなってしまいます。

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このように「基準範囲」を「正常範囲」に置き換えるのは間違いであり、そもそも多数集団の中で「正常範囲」と呼ぶことは危険だと言えます。「基準範囲」はあくまでも単純に統計学的処理を加え算出した目安ということとなります。
また「正常範囲」とは、性別や生活パターン、環境、嗜好など様々な要因により変化するその人固有のものであり生理的変動が加わった、言わば「性質」とも言えるものです。ですから「正常範囲」は万人に共通のものではありません。

【最後に】
 本号では、臨床検査部門である「研究検査科」のご紹介と、似て非なるもの:「基準範囲」と「正常範囲」の違いについてご説明しました。今後、このような形で臨床検査技師からさまざまなお話をさせていただきたいと思います。なおご意見、ご感想、ご要望などございましたら、遠慮なくお申し付けください。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


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GAM's Channel_vol.2_基準値と正常値 [Gam's Channel]


皆さんは、「基準範囲」と「正常範囲」という言葉を色々なところで耳にされたことがあると思います。

似て非なるもの。この二つの意味の違いをご存じでしょうか?

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 「基準範囲」の求め方は、問診を行い健康・正常と思われる方の検査をまず行います(上図参照)。

その結果の平均値を取り、平均値を中心に左右合わせて95%の方々のデータ範囲を「基準範囲」
と呼びます(上図のような分布を正規分布と呼びます)。

したがってグラフの両端2.5%+2.5%=5%の方々が基準範囲外となってしまいます。 
ですから「基準範囲」と「正常範囲」がもしも同じものであるとすれば、基準範囲外の5%の方々は
すべて異常と判断されることになります。

さて基準範囲を外れた方々は本当に異常なのでしょうか?

続きはこちらへどうぞ


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GAM's Channel_糖尿病新診断基準について(案)(Topics) [Gam's Channel]


 日本糖尿病学会より提示された 「糖尿病の新診断基準」 についてお知らせします。

 これまで糖尿病の診断基準の中では、HbA1cは補助的な診断として示されていたに過ぎませんでした。

 従来の基準ではHbA1c≧6.5%を糖尿病型の参考としていたのですが、10年ぶりの改訂ではHbA1c≧6.1%を
糖尿病型とすることが明記されています。

 さて世界的に大きな影響力を持つ米国の動向について記載します。医学誌「Diabetes Care」1月号で公表された
ADA(米国糖尿病協会)による2010年臨床ガイドライン改訂版は、2型糖尿病および糖尿病前症の診断における
HbA1c検査の重要性を強調したものとなりました。

 従来もHbA1c検査は糖尿病管理の重要指標として用いられてきましたが、2009年6月公表の新診断基準では、HbA1c≧6.5%を2型糖尿病とする新定義が採用されました。更に今回の新しい改訂ガイドラインでは、
HbA1c 5.7~6.4%を糖尿病前症(prediabetes)とし、予防と管理を働きかける対象としています。

 このようにHbA1c検査の必要性は世界的にも高まる一方なのですが、HbA1cの標準化が立ち遅れた時期においては、糖尿病診断には推奨されていない項目でもありました。しかし現在では高度の標準化され糖尿病や糖尿病前症確定に有用なツールとなってきています。

 ただし、本邦における標準化は、政策医療臨床検査連絡会(事務局:当院)による過去3回の全国サーベイランスにより問題点も山積していることが明らかとなっており、今後の動向が注目されるところです。

 この話題についてはまた後日お届けします。



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文責: 政策医療臨床検査連絡会 事務局代表 新井浩司


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GAM's Channel_GHbA1cの国際標準化について(Topics) [Gam's Channel]


 
ニュースでもお知らせしましたように、今回の改訂から糖尿病診断項目として正式に加わりました、GHbA1c(グリコヘモグロビン・エー・ワン・シー)についての、最新情報につきお伝えします。


【HbA1cの話題提供・・・国際標準化の流れ】

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 現在、世界では、

 ①日本で使用しているJDS(Japan Diabetes Society)

 ②米国を中心として使用しているNGSP(National Glycohemoblobin Standardization Program)

 ③欧州を中心に今後世界的標準となることが予定されているIFCC(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine)

 の三つのHbA1cの値(基準)が存在しています。各基準で使用している単位は、

 JDSとNGSPでは%、IFCCではmmol/mol となっています。

 世界の地域により単位や値がバラバラであることにお気づきだと思います。この三つの基準間では換算式によりそれぞれの互換性が保たれる仕組みとなっています。

続きはこちらへどうぞ


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GAM's Channel_vol.1_はじめに(施設紹介) [Gam's Channel]

みなさん、おはようございます。神戸医療センターの新井です。

 昨日予告しましたように、このコーナー(カテゴリー)では、臨床検査、臨床検査技師にかかわるご紹介をしていきたいと思います。なお、スライド作成や資料収集作業のこともありますので、配信は不定期になると思います。じっくりとお付き合いいただければ幸いです。

では早速、第一回目の記事に移らせていただきます。



 神戸医療センターは、兵庫県神戸市須磨区に位置します。最寄りの交通機関(鉄道)は、神戸市営地下鉄の「名谷駅」というところとなります。名谷駅から歩いて約15分程度、早い方でしたら10分程度、走ったら約5分ほど、駅から真っすぐ音速で飛んできたとしたら数秒・・・[ふらふら]


神戸医療センターの施設的な位置づけについて・・・

 名称の前に「独立行政法人国立病院機構(NHO)」という長ったらしい肩書が付きます。

 我々の組織は全国6つのブロック(北海道・東北、関東・信越、中部・北陸、近畿、中国・四国、九州)に分けられます。NHO構成施設は全国で145施設、またNCといわれる国立高度専門医療センターは全国で8施設、ハンセン施設が13施設ありますので、計166施設(平成21年7月現在)の系列病院であり、世界最大の医療ネットワークとなります。

 近畿では、NHO20施設、NC1施設(国立循環器病センター)の計21施設が構成施設となっています。

 私自身、神戸医療センターは2度目の赴任であり、複数の異動(計5回)を行ってきています。年齢がばれてしまいますので、在籍年数は申しませんが[もうやだ~(悲しい顔)]

 国立福知山病院(現在は市立福知山市民病院)、国立神戸病院(現在NHO神戸医療センター)、
 国立京都病院(現在NHO京都医療センター)、NHO大阪医療センター、国立循環器病センター、
 そして現在在籍中のNHO神戸医療センターとなります。

 神戸医療センターは施設病床(ベッド)数304床と、中規模のこじんまりとした施設です。
 神戸医療センターHP:
 
http://www.kobemc.go.jp/

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[ひらめき] PADM(パダム):遠位型ミオパチー患者会へのご協力お願い [ひらめき]

    遠位型ミオパチーという病気をご存知でしょうか? 
    筋肉そのものに原因があって、筋力が低下する「ミオパチー」といわれる疾患の中で治療法が全くなく、
    体幹部より遠い部分から徐々に筋力が低下していく非常に重い筋肉の進行性難病です。
    100万人に数名といわれる希少疾病ですが、2008年に「遠位型ミオパチー患者会」が発足しました。
    この患者会のみならず遠位型ミオパチーという病気をより多くの方々に認知していただき、一人でも
    多くの方々に賛同していただき、患者会の目標を達成することが目標です。その一つに「難病認定」
    があります。この「難病認定」のためには「署名活動」が必須であり、皆さんのご協力が必要です。
    宜しくお願いいたします。        
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