SSブログ

0316-633号 震災関連記事 感染症対策その他 [kensa-ML NEWS 【緊急】]

各報道機関の皆様へ
 以前、記事引用に関し皆様と一部引用を厳守することについて取り決めをさせていただきました。今回はこのような危機的状況ですので、ネットトラフィックを軽減する目的もあり、全文引用させていただきます。申し訳ございませんが、ご理解のほど、よろしくお願いいたします。なお、記事に関し問題がありましたら、私宛、ご連絡を頂ければ幸いに存じます。

                                                神戸医療センター 新井 拝



 明日にかけて、被災地ではかなりの冷え込みとなる見込みで、被災されている多くの方々の健康状態が非常に気にかかるところです。

 阪神大震災の時も極寒時で、風邪をひかれる方や下痢をされる方など多数おられました。避難所ではインフルエンザも蔓延し、衛生状態もかなり劣悪な環境でした。恐らく今回は津波というものも重なり、かなりの衛生状態悪化が予想されます。公衆トイレなどの不足もあるでしょうし、とにかく食料事情がかなり悪い状況ですから、栄養状態が悪化し、免疫力も低下。悪循環が容易に予想できます。

 今回の配信では、気をつけるべき感染症対策などを中心にしたいと思います。電気事情もかなり悪い状況ですから、被災されている方々がメール自体見ることは困難でしょうが、もしかしたらお役に立つことがあるかも?との思いで配信いたします。私のブログの方も出来る限り早急に震災関連の情報が一目でわかるように整備したいと考えております。

 本日、何か良いサイトはないものかと探し回っていましたら、OLIVEというサイトにヒットしました。震災被災地での生活を助けるアイデア集みたいなサイトですが、具体的に分かりやすいものなので、ご一読いただければと思います。
 
https://sites.google.com/site/olivesoce/


 さて避難所では、衛生状態に加え低気温、それに避難されている方が多数おられるでしょうから、感染症だけではなくエコノミー症候群などにも気をつけないといけないでしょうし、脱水症も多発する可能性があります。飲料水の不足は報道などでも明らかですから、特に気をつけるべきポイントかもしれません。慢性疾患をお持ちの方は多数おられるでしょうから、その対策もあるでしょうし。

 まずはトイレの問題からご紹介します。


トイレ ポリ袋活用/「決して我慢しないで」 朝日新聞 アピタル震災特集
 
https://aspara.asahi.com/column/eqmd/entry/iCHGfxgMKW
●避難所 トイレ、ポリ袋活用 「決して我慢しないで」
 くらしを支えるトイレ。断水で水洗式が使えない被災地では、仮設トイレのタンクが満杯になる場所も出てきている。多くの人たちが身を寄せ合っている避難所や、行政サービスから孤立した自宅で、断水時にどんなことに気をつければいいのか。
 災害時のトイレ事情に詳しいNPO法人「日本トイレ研究所」(
http://www.toilet.or.jp/)の加藤篤所長は、「今回の震災は水害が追い打ちをかけ、最悪の衛生環境に陥りかねない」と懸念する。
 加藤さんは、断水時にポリ袋を使う方法を呼びかける。「便器をポリ袋で覆ってから排泄(はいせつ)してほしい。袋には新聞紙などを一緒に入れ、排泄物の水分を吸収させた上で密封する。排泄物は断水が解除されたときに、少しずつ慎重に流してほしい」
 排泄は命を支える大事な営み。共同生活の中でトイレは、安心して1人になれる数少ない場所だ。加藤さんは、トイレの清潔さを保つために、トイレットペーパーや除菌シート、生理用パッドや紙オムツなどの衛生用品を被災地へ支援する必要性を説く。
 1995年の阪神大震災では、避難所のトイレの個室から排泄物があふれる事態になった。仮設トイレの備蓄が足りず、「数を増やして」という要望が殺到した。
 2004年にあった新潟県中越地震を通じた研究では、仮設トイレが被災者の心理面に及ぼす影響もわかった。トイレの段差や外気の寒さを嫌って、飲料水や食べ物を控え、体調を崩す高齢者が相次いだ。
 NPO法人「愛知排泄ケア研究会」理事の泌尿器科医、吉川羊子さんは「決して尿や便を我慢しないで」と訴える。「被災者同士で『トイレはお互い大変ね』と口に出すことで譲り合いの雰囲気も生まれ、清潔に使うマナーが守られる」
 このほかにも転倒などのトラブル予防のために、高齢者や女性同士で声をかけ合ってトイレに行くようにする▽便の細菌による感染を防ぐため、手指消毒剤や使い捨て手袋を使う▽現地入りするボランティアは市販の携帯トイレを持参する――ことが重要だという。


 次は低体温症についてご紹介。


避難所で低体温症を防ぐには/日本登山医学会 朝日新聞 アピタル震災特集
 
https://aspara.asahi.com/column/eqmd/entry/oMBqzSqm18
 各地の避難所では食料や毛布も足りず、さらに寒さも16日から厳しくなりそう。心配なのが低体温症だ。
 日本登山医学会によると、低体温症は体の中心の温度が35度まで下がることだが、耳の鼓膜を測るなど特殊な体温計が必要だ。増山茂理事は「体が震え出すことが低体温症のサイン」と言う。
 寒さを感じるセンサーが衰えている高齢者や熱を生む力が弱い子どもがなりやすい。栄養不足、血の巡りが悪くなりやすい水分不足や糖尿病、脳梗塞の人も要注意だ。
 がまんするのが一番危険だ。体を温めてもいないのにふるえが止まったら、悪化している危険がある。体の中心温度が32度まで下がると、つじつまの合わないことを言い出したり、ふらつきだしたりするという。さらに体温が下がると、心停止につながる。
 増山さんは「やけどに注意しながらペットボトルを湯たんぽ代わりにして脇、股、首に当てるといい。お湯がないなら、多くの人が体を寄せ合うのも効果的だ」と話している。


低体温症
 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%8E%E4%BD%93%E6%B8%A9%E7%97%87
 低体温症(ていたいおんしょう、Hypothermia ハイポサーミア)とは、恒温動物が、寒冷状態に置かれたときに生じる様々な症状の総称。また、低体温症による死を凍死(とうし)と呼ぶ。

【低体温症の機序】
 低体温症は、恒温動物の体温が、通常より下がっている場合に発生する。軽度であれば自律神経の働きにより自力で回復するが、重度の場合や自律神経の働きが損なわれている場合は、死に至る事もある症状である。これらは生きている限り、常に体内で発生している生化学的な各種反応が、温度変化により、通常通りに起こらない事に起因する。

【温度と生化学反応】
 生化学的反応の例を挙げるなら酵素の反応だが、これらは通常の場合において、特に動物が利用する酵素は、至適温度が40°C前後である(=40°C前後で最も効率良く働くということ)ものが多いが、これはヒトの中心温度(37°C前後。直腸温度などが最も近い)に近いため、体内で効率よく働くことができる。俗に「腹を冷やすと下痢(消化不良)になる」と言われるが、その原因の一つとして、消化管の温度低下によってこれらの酵素の一種である消化酵素の働きが鈍り、消化作用が阻害されることが挙げられる。
 また、ブドウ糖などの糖を酸化・分解してエネルギー通貨としてアデノシン三リン酸 (ATP) を生成する「解糖系」という過程も、周辺温度によって生成速度に差が生じ、低い温度ではこのATP生産が低下する。そしてATPは筋肉、神経、内臓など全身の細胞の生命活動全般においてエネルギー源として使用されているため、供給が滞れば致命的な問題に発展する。


【対処法】
 症状によって、必要な対処法が異なる。慌てて手足を温めると、急激に心臓に負担が掛かって、ショック状態に陥る危険性があるので注意する。アルコール飲料は確かに体が温まるが眠気を誘い、余計に事態を悪化させる危険があるので避けるべきである。体の温まる甘い飲み物は効果的だが、意識がはっきりしていないと、飲み物で溺死する危険性があるので、意識障害が在る者には飲ませてはいけない。

対処法・基礎】
 風雨に晒されるような場所を避け、衣服が濡れている場合は、それらを乾いた暖かい衣類に替えさせ、暖かい毛布などで包む。衣類は緩やかで締め付けの少ない物が望ましい。脇の下やそけい部(又下)等の、太い血管(主に静脈)がある辺りを湯たんぽなどで暖め、ゆっくりと体の中心から温まるようにする。この時、無理に動かすと、手足の冷たくなった血液が、急激に内臓や心臓に送られる結果になるため、体を温めさせようとして運動させるのは逆効果であるので、安静とする。
対処法・軽度】
 とりあえずどんな方法ででも、体を温めるようにして、暖かい甘い飲み物をゆっくり与える。ただし目が醒めるようにとコーヒーやお茶の類いを与えると、利尿作用で脱水症状を起こすので避ける。アルコール類は体は火照るが、血管を広げて熱放射を増やし、さらには間脳の体温調節中枢を麻痺させて震えや代謝亢進などにより体温維持のための反応が起こりにくくなるため、絶対与えてはいけない。リラックスさせようとしてタバコを与えてはいけない。タバコにより末梢血管が縮小して、凍傷を起こす危険があるためである。この段階では、少々手荒に扱っても予後はいいので、出来るだけこの段階で対処すべきである。
対処法・中度】
 運動させたりすると、心臓に冷たい血液が戻って、心臓が異常を起こす事もあるので、出来るだけ安静に努める。急激に体の表面を暖めるとショック状態に陥る事があるので、みだりに暖めない。比較的穏やかに暖める事は可能であるが、裸で抱き合うと、体の表面を圧迫して余計な血流を心臓に送り込んで負担を掛けるので避けるべきである。同様の理由で手足のマッサージも行ってはいけない。とにかく安静にする必要があるので、風雨を避けられる場所に移動するにも、濡れた衣服を着替えさせるにも、介助者がしてやるようにし、出来るだけ当人には運動させないようにする。心室細動により非常に苦しむ事も在るが、心臓停止状態以外では、胸骨圧迫も危険であるため、してはならない。
対処法・重度】
 呼吸が停止しているか、または非常にゆっくりな場合は、人工呼吸を行って、呼吸を助ける。心臓停止状態にある場合は、胸骨圧迫を併用する。心臓が動き出したら胸骨圧迫を止め、人工呼吸を行う。この場合はマウス・トゥ・マウス式(仰向けに寝かせた要救護者の後頭部から首に掛けて手を宛がって持ち上げ、鼻をつまんで、介護者が口を使って、要介護者の口へ息を吹き込む・喉の奥に吐いた物が詰まっている場合は、これを取り除いてから行う)人工呼吸の方が、人間の吐息であるために暖められていて都合がよいとされる。


 次は災害時(津波を含む)の感染症対策について


2011年の東北関東大震災と感染対策(神戸大学 岩田健太郎先生 2011年3月14日)
 
http://blog.livedoor.jp/disasterinfection/archives/2599347.html
ポイント
 ・災害時の感染対策はブリコラージュが大切である。
 ・多いのはコモンな感染症である。かぜ、下痢症等に要注意。
 ・外傷後の破傷風予防に気をつける。
 ・感染伝播は、感染経路を考えて対応する。

【はじめに】
 本稿は、2011年3月11日から発生した東北関東大震災を受けて、感染症対策という観点からまとめたものです。想定する読者は、被災地で感染対策を行う医療者です。
 津波と感染症に関する一般事項についてはCDCのサイトに詳しいですが、必ずしも今回の「この」津波にフィットした内容とは限りません。
 
http://emergency.cdc.gov/disasters/tsunamis/healthconcerns.asp
 ですから、本稿では今回の災害を受けて具体的にどのような対策をとったらよいか、今手元にある情報から考えて作ってみました。事態の緊急性を鑑み、また読みやすさを考えて詳細な文献的内容は取り入れていません。読みやすさに大きなウエイトをおきました。また、文中に活用できるリンクも貼りましたが、電気やネットへのアクセスがなくてもプリントアウトして読めるような内容を目指しました。
 以下の見解は岩田の個人的見解で、神戸大学各部署を代表するものではありません。もちろん本稿はリンクフリー、転載フリー、コピーフリーです。メディカ出版の寛大なるご判断に心から感謝申し上げます。
【災害時の感染対策はブリコラージュである】
 非常時には、常時の「常識」が必ずしも適応できません。「あれがあればできるのに」という発想はうまくいきません。「ここにあるもので、どこまでできるか」という発想が大切になります。これを、フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースは「ブリコラージュ」と言いました。手近にあるものでなんとかやり繰りすることです。こういう発想は現場の感染対策ではいつでも有効ですが、特にリソースが枯渇しやすい災害時には有効です。教科書的な「正しい感染対策」に縛られず、手元にあるリソースを最大限に活用して臨機応変の「知恵」を出しましょう。
 手袋は1回使って捨てるのが常時の医療の基本ですが、このようなときには24時間、あるいはそれ以上の着用が正当化されるかもしれません。手指消毒も最低限に絞ってもよいかもしれません。リソースがどのくらいあり、ニーズがどのくらいあるかを見積もって、逆算して「どこまでできるか」考えましょう。
【最大のリソースは、人である】
 災害時の最大、最強のリソースは「人」です。これが枯渇しないように気をつけます。災害時にはやることが沢山あり、また使命感で気負っていますから、どうしても「がんばりすぎ」になります。適切な休養、食事、睡眠がないと人間の判断力は低下します。このような緊急事態だからこそ、自らの荒ぶる心を静かに落ち着かせ、目先の使命感だけでなく、長期的なアウトカムや全体の利益を考える視点が大事になります。全体を見回す目、「bird's eye(鳥の目)」と呼ばれる視点です。自らが働きすぎないように、仲間が疲弊しないように目配りし、適度な休養を「義務」としてとりましょう。
【被災直後は外傷対策】
 被災直後は外傷患者ケアが大切になります。感染症的なポイントは、
1.抗菌薬
2.破傷風対策
に集約されます。抗菌薬を誰に処方するかは、そこにある抗菌薬の量と患者の数に関係します。抗菌薬が潤沢にあれば、比較的容易に処方したらよいでしょう。抗菌薬の数が足りなくなってきたら、比較的きれいなキズは洗浄だけで抗菌薬処方はなしにせざるをえないでしょう。とはいえ、通常医療と異なり、外来フォローが困難だったり、「一回だけ」診療ができる短期診療のことも多いでしょうから、抗菌薬処方の閾値は下げておいたほうがよいでしょう。
 期間は通常3日間。実際に創部感染を起こしていれば1週間程度の治療がよいでしょう。あまり抗菌薬を長期に出しすぎると、ストックが枯渇しますから有効につかいましょう。
 ケフレックスのような第一世代のセフェム、オーグメンチンやクラバモックスのようなβラクタマーゼ阻害薬入りのペニシリン、クリンダマイシンなどを用いればよいと思います。もし、こういった抗菌薬がなければミノマイシンや第2,第3セフェムでもある程度は効果があります(通常医療では奨められませんが、他になければやむを得ません)。シプロキサンは3日程度なら黄色ブドウ球菌のような皮膚感染症の原因には使えるでしょう。バクタ(ST合剤)も使えますし、ジスロマックやクラリスのようなマクロライドも(効果は小さくなりますが)全く無意味というわけではありません。他に抗菌薬がなければ、やらないよりはましでしょう。比較的軽いキズであれば、ゲンタシン軟膏でもいけると思います。
 膿の培養検査は通常医療であれば必要ですが、災害時には電気や検査技師を消耗しないためもあり、提出しなくてもよいと思います。難治例、重症例では選択的に膿の培養や血液培養を提出してもよいでしょう。
 汚いキズには破傷風のトキソイド、もっと汚いキズには破傷風免疫グロブリン(テタノブリンなど)が必要になります。破傷風はいったん発症すると治療にとても難渋しますし、人工呼吸器など高度なリソースを要しますから、きちんと予防したほうがよいです。
 日本の場合、1968年からの三種混合ワクチン(DTaP)の定期接種以前に生まれた人などは最初の免疫ができていません。したがって、トキソイドも3回接種が必要になります。定期接種を受けている人は、10年に1回の接種で大丈夫です。ただ、トキソイドの量が足りないときは、仕方がないのでせめて1回だけでも接種しましょう(このへんはロジスティクスの問題になります)。
 トキソイドと免疫グロブリンは同時接種しても大丈夫です。B型肝炎と同じですね。
 詳しくは、山本舜吾先生の解説をごらんください。
 
http://blog.livedoor.jp/disasterinfection/archives/2582521.html
【津波に関連した感染症】
 専門的には津波に関連する感染症の懸念はあります。ビブリオ、エアロモナス、レプトスピラ、A型肝炎などです。しかし、今回の津波は冬の日本で起きており、これらの教科書的な感染症のリスクは(ゼロではないにしても)相対的には小さいでしょう。レプトスピラは災害の現場で確定診断するのは困難でしょうし、たとえ重症例でも普通に広域抗菌薬で治療する他ないと思います。免疫抑制者のVibrio vulnificus感染も同じです。A型肝炎も特定の治療法はないですから、他の重症患者同様に(可能であれば)全身管理にて治療されるでしょう。興味のある方はCDCのサイトをご参照ください。
 
http://emergency.cdc.gov/disasters/tsunamis/healthconcerns.asp

つぎは、避難所での「コモンな感染症」
 超急性期は外傷ケアが問題になるが、避難所での生活が長く続くと、次に問題になるのは狭い避難所での感染症になります。特に水の枯渇が問題です。
 1.飛沫感染症 風邪、インフルエンザなど
 2.下痢症
 3.空気感染症 結核、麻疹、水痘など
 4.肺炎や尿路感染
などが問題になると思います。

 1.ですが、水が潤沢にあれば「手洗い」ということになるでしょうが、そうはいかないことも多いでしょう。ウェット・ティッシュなどを代用することも有効かもしれません。うがいはこれらの感染予防や治療にあまり有効ではないので、ここに大量の水を使うくらいなら手洗いや飲用水にまわしましょう。患者はサージカル・マスクを付け、患者でない人とできるだけ距離をとりましょう。最近、予防に亜鉛が有効というデータがあるので、可能であれば亜鉛タブレットを配ってもよいかもしれません。ただ、亜鉛は気分が悪くなる人もわりと、います。
 臨床的にインフルエンザっぽかったら周囲への予防効果も考え、さっさとタミフルなどの抗インフルエンザ薬を用いたほうがよいかもしれません。迅速キットなどの診断検査は行ってもよいですが、同じ避難所から同症状の患者が増えたら無駄でしょうから、検査なしで治療します。周辺に予防投与させる方法も、薬が沢山あるときは有効でしょう。インフルエンザは流行が下火になっているので、あまり大きな問題にはならないと思いますが、インフルエンザBは今後も流行するかもしれません。

 2.ですが、結構厄介です。まず、水やトイレの不足から衛生面で下痢症予防は困難です。発症しても狭い避難所では伝播しやすいです。治療の原則は輸液ですが、水が不足しているときは小児や高齢者は脱水に陥りやすく、死に至ることもあります。与えられた水を有効に用いて、治療します。
 下痢症の輸液は多くの場合経口で可能ですから、点滴でなくても治療できます。ORS(oral rehydration solution)があればそれを活用します。可能な限り煮沸消毒、あるいはイソジン・タブレットによる消毒をしましょう。吐いていても、吐いている間に水を飲ませます。
 吐物や便はできるだけ手袋とマスクを着用の上処理します。マスクをするのは、ノロウイルスなどミストが飛んで口に入るからです。ノロウイルスを疑った場合の消毒薬は、キッチンハイター等の塩素系消毒液を500mL入りのペットボトルのキャップに半分入れ、それを500mlの水とまぜればできあがり。ゴム手袋を着用して汚れたところを拭くとよいです。ノロウイルスは非常に流行の伝播が早く、避難所で流行するととてもやっかいなので持てるリソースを十分に使って強力な対策をとります。
 外傷同様、ルーチンで便培養をするのはリソースの無駄遣いなので必要ないでしょう。細菌性下痢症のアウトブレイクが疑われたら(持続する熱や血便など)行ってもよいでしょう。
 細菌性下痢症では通常抗菌薬を投与しないことが多いですが、避難所で下痢が続くと脱水のリスクやQOLの低下が甚大なので、シプロキサンのような抗菌薬を早めに投与してもよいと思います。カンピロバクターを疑えば(鳥肉摂取後)、アジスロマイシンのようなマクロライドがよいでしょう。止痢薬(ロペミンなど)は、このような状況下では積極的に使うのが正しいと私は思います。

 3.はかなりやっかいです。陰圧個室などの確保は難しいです。かといって、このような感染症が広がるのは大きな問題です。麻疹も水痘もそれほど死亡率は高くない感染症ですが、水が足りないところだと脱水から死亡率が高まるかもしれません。トイレなどできるだけ個室を確保し、なんとか患者を離してください。私が以前見た対策では、診療所のテレビの後ろに患者が隠れてもらう、、と言うのがありました。それは常時の医療では「バツ」ですが、やらないよりましかもしれません。患者にはサージカルマスクを付けてもらいましょう。N95は実際的でないので、医療者もサージカルマスクを付けるのがよいと思います。
 水痘は曝露後予防接種の効果が知られているので、予防接種を受けていない免疫正常な1歳以上の小児には周辺で接種してもよいでしょう(曝露後72時間以内)。アシクロビルなどの抗ウイルス薬にも曝露後予防効果があります。1週間くらい用いることが多いです。

 4.は、もともと高齢者などに多い感染症です。災害時にも当然多く見られます。避難所の生活での衰弱なども発症に拍車をかけるかもしれません。通常の医療と同様、これらの感染症に対応します。簡単なレジメンは、点滴薬があればロセフィン(セフトリアキソン)1日1g点滴 ロセフィンは「常時」は2g、4gと大量に使いますが、1gでも中等症くらいまでならOKです。大事に使いましょう。経口だとクラビット(レボフロキサシン)500mg1日1回経口 がバイオアベイラビリティーがよいので便利です。7日くらいの治療で多くは大丈夫だと思います(抗菌薬が潤沢であれば、敗血症例、腎盂腎炎は14日くらいの治療が理想的です)。
 もちろん、これ以外の抗菌薬でも肺炎や尿路感染に対応できます。例えば、普段は感染症診療のファーストラインに用いられにくいテトラサイクリン系ですが、抗菌薬が枯渇したときにはいろいろな用途に用いることができます。詳しくは、土井朝子先生の解説をごらんください。
 
http://blog.livedoor.jp/disasterinfection/archives/2589165.html

【遺体の扱い】
 残念ながら、今回の地震では多数の死者が発生しています。死体は異臭を放ちます。しかし、安易に埋葬すると身元の確認ができなくなります。火葬をすると火災のリスクがあります。いずれにしても、「異臭」には感染性はなく、それが故に「疫病」を恐れて慌てて土葬・火葬を行う必要はありません。飛沫感染、空気感染など、遺体から感染することはきわめてまれなのです。出血があれば肝炎ウイルスなどの感染を予防するために手袋が合理的な対策でしょう。


災害対策に関連した感染症について、頻度の高いものへの対策
 
http://blog.livedoor.jp/disasterinfection/archives/2578157.html
 災害対策に関連した感染症につ いて、頻度の高いものから申し上げます。
1.かぜ、インフルエンザ、下痢症
 避難所での密な生活と水不足のためです。トイレや 水の確保が大切になります。水痘、結核の懸念もあります。N95はあまり現実的ではないので、通常はサージカルマスクが役に立ちます。下痢症は水不足の状 態では死亡のリスクがありますので、軽く見てはなりません。通常は止痢薬は「相対的に禁忌」とされていますが、避難所での不便な生活を考えると、ロペミン 等の処方は正当化されることも多いです。比較的治癒しやすい水痘ですが、水不足の時は小児の水痘が脱水、ショックの原因になりますから、可能な限りの隔離 が望ましいです。
2. 外傷に関連した感染症
 破傷風を含みます。破傷風トキソイドと(必要でか つ可能ならテタノブリンも)、外での外傷では3日程度の抗菌薬(オーグメンチンなど)が処方されることが多いです。
3.津波関連の感染症
 (vulnificus)を含むビブリオのリス クはありますが、冬ではそのリスクは低めだと思います。レプトスピラ、A型肝炎、エアロモナスなども可能性はありますが、上の1,2に比べると今回の地震 におけるインパクトは小さいと思います。
4.血流感染
 普段より清潔操作ができない入院患者、透析患者に おいて
 
 最後に、死者から異臭が漂うと感染を懸念する人が増えますが、遺体から空気感染、飛沫感染することはまずありません。地震のあるときに遺体の焼却をするのは危険ですし身元確認ができなくなるので、安易な火葬はやめるべきです。出血からHBVなどの感染は可能性があるので、手袋は有効です。
 なお、頻度的には高齢者の肺炎 や尿路感染の受診が多いです。平時に多い事象は緊急時にも当然多い


 少し長くなりましたが、最後にエコノミークラス症候群について。


静脈血栓塞栓症
 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%99%E8%84%88%E8%A1%80%E6%A0%93%E5%A1%9E%E6%A0%93%E7%97%87
 静脈血栓塞栓症(じょうみゃくけっせんそくせんしょう)は、肺血栓塞栓症(Pulmonary embolism:PE)と深部静脈血栓症(Deep vein thrombosis:DVT)を併せた疾患概念である。
 飛行機内などで長時間同じ姿勢を取り続けて発症することがよく知られており、俗にエコノミークラス症候群あるいはロングフライト血栓症とも呼ばれる。
【原因】
 静脈血の鬱帯(うったい)や血液凝固の亢進が原因となる。血流鬱滞(血液の流れが滞ること)の原因としては長時間同じ姿勢で居続けることや鬱血(うっけつ)性心不全、下肢静脈瘤の存在が挙げられる。血液凝固の亢進(血が固まりやすくなること)は様々な病態において生じるが例えば脱水、がん、手術、エストロゲン製剤の使用などが挙げられる。また抗リン脂質抗体症候群などの血栓性素因も原因となる。
 特に湿度が20%以下になって乾燥している飛行機、とりわけ座席の狭いエコノミークラス席で発病する確率が高いと思われているためにエコノミークラス症候群と呼ばれるがファーストクラスやビジネスクラス、さらに列車やバスなどでも発生の可能性はある。タクシー運転手や長距離トラック運転手の発症も報告されている。長時間同じ体勢でいることが問題といわれる。
 2002年に日本人サッカー選手の高原直泰が旅客機での移動に際してエコノミークラスより格段に広いビジネスクラスを利用して発病したこともあり、エコノミークラス以外なら安全ということではない。このため旅行者血栓症とも言われるが、日本旅行医学会はバスなどでの発生はまれだとしてロングフライト血栓症に改称することを提唱している。
 なお高原選手の2006年のワールドカップドイツ大会の代表選出に関連して、ドイツへの移動に際しては高原選手のみは日本サッカー協会からファーストクラスがあてがわれた(ジーコ監督以下他のスタッフはビジネスクラスを利用)。
 2004年の新潟県中越地震では、自動車の中で避難生活を送る人たちの中にエコノミークラス症候群の疑いで死亡するケースが相次いだ。
 なお日本国外では、犠牲者の遺族が航空会社を提訴するなど社会問題にもなっている国もある。
【症状】
 深部に血栓ができた場合は痺れや皮膚色の変色、血栓より遠位の浮腫などといった症状がでるが無症状のこともある。特に下肢静脈血栓は左に起きやすい。これは左の総腸骨静脈と右の総腸骨動脈が交差しているため、後者によって前者が圧迫されやすいためである。
 体の深部静脈に血栓ができた場合はその静脈と周囲の皮膚に炎症を起こし、血栓性静脈炎を引き起こすことがある。
 血栓が飛んで肺塞栓を引き起こすと、呼吸困難と胸痛などの症状が出る。そのほか動悸、冷汗、チアノーゼ、静脈怒脹、血圧低下、意識消失なども生じる。急激かつ広範囲に肺塞栓を生じた場合は心肺停止となり、突然死する。
【予防】
 静脈血栓塞栓症は突然死をきたす重篤な疾患である。そのため発症する前に予防することが非常に重要である。一般的に推奨されている予防法を示す。
 長時間にわたって同じ姿勢を取らない。時々下肢を動かす。飛行機内では、着席中に足を少しでも動かしたりすることなどが推奨されている(乱気流により負傷する事故もあることから、飛行中にむやみに席を立って歩いたりすることは行わないほうが良い。航空会社によっては、座席でできる簡便な下肢の運動法を記したパンフレットが各座席に備え付けられている場合もある)。
 麻痺や療養のため長期臥床を余儀なくされる場合、長時間の手術を行う場合は弾性ストッキングや空気式圧迫装置を用いて血液のうっ滞を防ぐ必要がある。特に弾性ストッキングはリスクのある例全てに行なわれるべきである。長期臥床への利用は、外科手術後は抑制・予防効果が認められるが、脳卒中後の深部静脈血栓症には効果がないと報告されている。
 脱水を起こさないよう、適量の水分を取る。飛行機内では客室乗務員を呼び出して、適宜水を持ってきてもらう。ビールなどのアルコール飲料や緑茶・紅茶・コーヒーなどカフェインを含む飲み物は利尿作用があり、かえって脱水を引き起こす恐れがあるので水分補給目的としては避けたほうが良い。
 血栓症のリスクが高い場合は、予防的に抗凝固療法を行う。
 下肢静脈に血栓が存在する場合には、肺に血栓が飛ぶのを防ぐために下大静脈フィルターの留置が検討される。


nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:健康

nice! 9

コメント 0

Facebook コメント

トラックバック 0


[ひらめき] Facebook・・・友達リクエスト、フィード購読大歓迎
     https://www.facebook.com/gamdango
[ひらめき] Facebook・・・最新情報はこちら
       https://www.facebook.com/Project102.MT

 

[ひらめき] PADM(パダム):遠位型ミオパチー患者会へのご協力お願い [ひらめき]

    遠位型ミオパチーという病気をご存知でしょうか? 
    筋肉そのものに原因があって、筋力が低下する「ミオパチー」といわれる疾患の中で治療法が全くなく、
    体幹部より遠い部分から徐々に筋力が低下していく非常に重い筋肉の進行性難病です。
    100万人に数名といわれる希少疾病ですが、2008年に「遠位型ミオパチー患者会」が発足しました。
    この患者会のみならず遠位型ミオパチーという病気をより多くの方々に認知していただき、一人でも
    多くの方々に賛同していただき、患者会の目標を達成することが目標です。その一つに「難病認定」
    があります。この「難病認定」のためには「署名活動」が必須であり、皆さんのご協力が必要です。
    宜しくお願いいたします。        
          http://enigata.com/index.html


    人気ブログランキング   臨床検査ランキング   Ameba_banner.jpg

人気ブログランキングにほんブログ村ランキング(臨床検査)に参加しています(Amebaは姉妹サイトです)。
啓蒙活動の一環として参加していますので、バナー↑↑↑へのクリックに是非ともご協力ください[ひらめき]


 臨床検査技師のブログにお越しいただき有難うございます。

 さてこのブログでは、臨床検査に関連する内容だけではなく、医療系、農業系、宇宙系、少年野球系等々、雑多な内容となっています。またこのブログを立ち上げたのは、多くの方々に密接な関係のある臨床検査をもっと知っていただきたい、そしてその業務に就いている臨床検査技師をもっと知っていただきたいとの思いからです。

 現代の医療においては、客観的根拠を基に病態解析などがなされ、EBM(Evidence based Medicine)の根幹として臨床検査データは位置付けられています。このような重要なポジションに居ながら、我々自身の待ち受け体質は根強く、我々臨床検査技師自身が何をするべきなのか、また何が出来るのかを真剣に考えるべきであり、後進の方々に良い道を残すためにも、一般の方々に臨床検査技師をまず知っていただく、ということが必要なのだと思います。そのような趣旨から各種サイトランキングにも登録しておりますので、バナーをクリックしていただければ幸いです。

 ご質問、ご意見、ご感想などございましたら、
gamdango@csc.jp までご遠慮なくメッセージをお送りください。ただし医療相談等には内容によりお答えできない場合もありますので、あらかじめご了解ください。

         NHO神戸医療センター
         臨床検査技師長
                新井 浩司

好き放題コメントを加えた最新の医療系情報(科学系、農業系、少年野球系話題も満載?)をご提供しています。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。