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臨床検査に触れていただくコーナー⑤ ~検査データ標準化に関わること2~ 2010年12月作成 [Gam's Channel]


【はじめに】
 前号では政策医療の概要と臨床検査標準化の必要性につき述べてまいりましたが、今号では具体的な実例を挙げてお示ししていきたいと思います。なお掲載する内容は平成20年8月に国立病院臨床検査技師協会本部誌に投稿したものを、一部抜粋、一部改編してお届けします。なお政策医療臨床検査連絡会(以下連絡会)では、平成14年度・平成16年度・平成19年度・平成21年度の4回、国立病院機構、国立高度専門医療研究センター、国立ハンセン療養所等(以下国立医療機関)に対し臨床検査データの互換性に関するサーベイランスを実施しております。

 前号でもお伝えしましたが、生化学・免疫検査領域の主要項目において国立医療機関においては、ほぼ標準化が達成されている状況となっています。ただしこれは本邦における指定された測定原理、測定試薬、標準物質を使用した場合のみであり、それ以外のものを使用して測定した場合には保証されません。

 しかしこれ以外の項目、例えば、内分泌・代謝性疾患関連項目や、循環器疾患関連項目、さらには腫瘍マーカー、ホルモンなど診療に密接に関わりのある項目についての標準化は程遠い状態で、このことについては前号にて少し触れたところです。今号では連絡会沿革と活動内容をご紹介し、平成21年度助成研究内容を一部、具体的な例を挙げてご説明したいと思います。


【連絡会の経緯】
平成14年度・・・連絡会発足。起案趣意書作成。
平成15年度・・・ホルモン3項目調査実施と内分泌専門医研修会(国立京都病院)発表。各種投稿文、次期サーベイランス準備。
平成16年度17年度・・・ホルモン3項目+内分泌・代謝性疾患関連項目23項目全国サーベイランス実施(平成17年1月サーベイランス実施、平成17年3月一次報告書関連施設配布、平成17年10月総合医学会発表、平成17年11月日本糖尿病学会地方会発表)。同研究は平成16年度厚生労働省基盤研究ネットワーク・医療技術等研究支援。


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平成18年度・・・平成18年5月日本糖尿病学会学術集会発表、平成18年6月国臨協近畿支部学会発表、各種投稿文、依頼書作成
平成19年度・・・平成19年10月内分泌・代謝性疾患関連26項目+循環器病疾患関連項目11項目近畿ブロック21施設サーベイランス実施(平成19年11月総合医学会発表、各種投稿文、依頼書作成)。
平成20年度・・・平成20年6月国臨協近畿支部学会発表、平成20年11月総合医学会発表(定点調査報告)。
平成21年度・・・平成21年度政策医療振興財団研究助成、平成21年8月内分泌・代謝性疾患関連26項目、循環器疾患関連項目11項目、腫瘍マーカー5項目、計42項目ならびに外部委託検査設問につき、国立病院関連施設166施設を対象に全国サーベイランス実施。同研究とは別途、全国外部委託検査業者対象に臨床検査委託業者第一次調査同年9月に実施。同10月開催第63回国立病院総合医学会において、一次報告「第1報 外部委託検査」「第2報 循環器疾患関連検査」実施。
平成22年度・・・平成22年度政策医療振興財団研究助成(外部委託検査客観的評価指標運用による臨床検査データ標準化推進がもたらす経済的・医療的両側面に対する改善効果検証)、11月開催第64回国立病院総合医学会において一次報告。


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【平成21年度助成研究より】
 連絡会が経年的にサーベイランスを行っている検査項目は、前述のように多岐にわたっていますが、院内で検査されているものばかりではなく、外部委託検査に依存しているものが多々あります。臨床医からすると、院内であろうが院外であろうが同じ検査データなのですが、残念ながら院内従事する臨床検査技師にとっては外部委託検査のデータに対する関心度は低く、外部委託先から報告された検査結果は多くの場合チェックされることなく臨床医のもとに返却されます。また近年、治験・研究分野において外部委託検査を利用されることが非常に多くなっているのが実情ですが、この外部委託検査の品質について問われることは稀ではないでしょうか?連絡会が着目しているのはまさにこの点であり、国内外問わず使用に耐え得る高品質な臨床検査データを提供していきたいとの考えです。しかし業界全体の言わば大改革が必要ですが、まずは現状調査を行い、啓蒙活動を推進しているところです。

 さて平成21年度助成研究では、内分泌代謝性疾患、循環器疾患、腫瘍マーカー等42項目にわたる全国サーベイランスを行いましたが、全てをこの紙面上でご紹介出来ませんので、循環器疾患関連11項目のうち、その中でも特に問題の大きな3項目につきご紹介します。

 まず凝固線溶系項目のFDPとDダイマー(DD)についてご説明します。右図に示すように、FDP、DDとも単位はμg/mLに収束傾向にあるものの測定原理や測定試薬は多種多様であり、標準化が非常に困難であることを示しています。また大手外部委託業者2社がFDPにおいて同一試薬を用いて検査を行っているにもかかわらず基準値が異なるという報告もありました。


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 次は古典的な項目でもあり心筋梗塞の指標として多くの臨床現場で用いられているCK-MBの調査結果となります。ご覧のように、報告単位や基準範囲に収束は見られず、標準化には程遠い現実が浮かび上がりました。ちなみに、平成19年度サーベイランスにおいても同様の結果となっており、非常に根深い問題であることが想像されました。


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 このように、院内実施率も高く診断に直結している検査項目であっても、また各種医療連携などで広く用いられている項目であっても、互換性が乏しい場合がかなりあり、病病間、病診間において情報交換をする際には、注意をしなければいけないということになります。


【後記】
 本稿作成は12月後半ですが、現時点では温暖の差が非常に激しく、風邪をひかれている方や体調を崩されている方が多い状況です。またノロウィルスを中心とする感染性胃腸炎やマイコプラズマ肺炎など全国的にも流行している状況です。昨年は新型インフルエンザの影響により、スタンダードプリコーション(標準予防策)が一般の方々にも浸透し、感染性胃腸炎などの発生も抑えられていたのではないでしょうか? やはり備えあれば憂いなし。基本的なことですが、手洗い、うがいの必要性を多くの患者さんにご理解いただきたいものです。ウェザーニュースなどの予報によると平成23年は大量の花粉が飛散するようですし、黄砂も例年の如くかなり飛び交う予想。さらには鳥インフルエンザの動向も気になりますし、憂鬱な春となるかもしれません。平成23年が平穏な年であることを願うばかりです。皆さんにとって、実り幸多き一年でありますように・・・

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