検査の標準化 全国共通の検査デ-タ供給に向けて 2000年6月厚臨協近畿支部報掲載① [Paper]
1/6 http://koji-arai.blog.so-net.ne.jp/archive/20110106 に掲載した記事内容に対し、ご質問、ご感想などいただき、誠に有難うございました。皆さんから頂いたご質問内容に対するご回答となるかどうかは分かりませんが、私自身が以前投稿したものを掲載させていただきます。約10年以上前のことですから、現在とは時代背景がかなり異なることを、まずお断りしておきます。
以下の文章は、2000年6月の厚生省臨床検査技師協会(厚臨協)近畿支部支部報に掲載されたものですが、作成したのはその約1年前となります。当時、標準化といった概念が学会レベルで少しずつ議論されてきた時期ではありますが、一般的にはあまり認知されていなかったようです。作成してから約1年の時間経過があるのは、当時の広報担当責任者の方から、一部掲載に変更するよう強く求められたためです。全文掲載しかお断り!と私の方が返答したため、担当者の方も対応に難色を示しました。そのようなやり取りが約半年間続いたあと、私の方から全文掲載でなければ作成原稿を返却してほしい、と強く申し入れた結果、いたしかたなく全文掲載となったものです。当時の私は主任という立場であり、主任の立場で検査科全体をマネージメントを語ることなどもっての外、のような風潮があり、この投稿文が掲載された後、長期間にわたり、批判的な上の方々からかなりの圧力を受けたのは事実です。しかし批判をされたほとんどの方々が、理解できなかったというのが本当のところでしょうし、理解できないものに対して排他的になってしまったのだろうと思います(私が生意気なのもありますが)。
今再び自身で読み返しても、間違っていることは書かれていないと思いますが、当時の私に抜けていたものは、地域医療という概念。この概念は国立神戸病院(現神戸医療センター)から国立京都病院(現京都医療センター)に転勤をして、地域医療連携室に併任配属され、地域医療に直接携わることにより初めて芽生えることとなります。また政策医療と地域医療両面に直接的に携わった臨床検査技師は恐らく日本で私一人であると思います。
前置きはこのくらいにして、当時の原文そのままでお届けします。なお、文字ばかりですので、少々読み辛いと思いますが、あしからずご了承ください。なお長文ですので、二回に分けてお届けしたいと思います。
検査の標準化 全国共通の検査デ-タ供給に向けて 国立神戸病院主任臨床検査技師 新井浩司
1.はじめに
現在、国立医療機関が早急に取り組まねばならないものとして、
(1) 政策医療の推進
(2) 独立行政法人化に向けての経営基盤の確立
(3) カルテ開示、電子カルテ化等、情報化の推進
などがあげられています。これに伴い、各病院の検査科単位のみならず、国立医療機関の検査科相互協力のもとにこれらのプロジェクトの推進が求められています。またFMSやブランチ導入施設増加や医療法改正などを含めた法規制緩和等が取り巻く情勢の中では早急にかつ無駄のない系統立った動きをしないと、国立医療機関の検査室が崩壊しかねない危機的状況にもなっています。
さて、上記の3項目についてご説明をしたいと思います。
【政策医療の推進】
「国が担うべき事業を確実に実施する。すなわち、政策医療ネットワ-クを通じた医療体制の充実強化。」ということが、独立行政法人の使命として明文化されています。政策医療を推進し、地域医療は余力があれば・・・といったニュアンスにもなっています。ただこれは平成16年の独立行政法人化後に取組みを開始するものではなく、いま開始しなければなりません。具体的には、診療・研究のため、検査のデ-タベ-ス化が必要であり、かつ全国で集計される検査デ-タが比較できるものであり、保証されたデ-タが必要ということであり、
① 政策医療に必要な全国共通に使える検査デ-タを出せない検査室
② 検査デ-タに対して保証ができない検査室
はその必要を認めないということです。
【独立行政法人化に向けての経営基盤の確立】
独立行政法人は企業会計で運用される予定であり、経営基盤確立のため、いま以上の経営改善に向けた業務委託やDRG/PPSに対応して検査科としてクリティカルパスの作成、業務委託の促進、稼働率向上などが求められます。クリティカルパスの導入に際しては検査科として、検査方法や作業手順の標準化などを進めなければなりませんし、そのためには現業務の洗い出しをおこなって無駄をなくす、業務改善に対しての努力が必要となります。そのほか、経費削減、危機管理(感染予防対策や安全対策、検査マニュアル作成等)、情報発信など施設内努力も大きな比重を占めます。
【カルテ開示、電子カルテ化等、情報化の推進】
政策医療に対して検査法やデ-タ、報告形式などの標準化と検査デ-タの精度保証の必要性についてはすでに述べたことですが、カルテ開示や電子カルテに対しても同様のことがいえます。また、カルテの標準記載要領にかなった報告形式が要求され、あらゆる検査デ-タの標準化が求められます。
個人の力を最大限に活用し、施設能力の結集をはかるには情報化の推進が求められます。作業を分散処理し、情報を収集することや相互協力するためには施設内外の情報ネットワ-クを整備し活用することが重要となります。
2.自施設で何を取り組むべきなのか
前項では、標準化を推進しなければ国立病院・療養所等の検査室が崩壊しかねない現状について述べました。この項では「標準化」に向かって検査科内部で何を取り組んでいけば良いのかということを述べたいと思いますが、業務目標を明確化する必要があります。
【業務目標】
人員的、経済的観点から非常に困難な情勢に陥っている現状では、精度管理を含む日常検査業務において極力、無駄を省き、そのような中でいかにミスを少なくするかという努力が必要です。
また、情報開示に向けて平成12年6月27日に出された、「国立病院等における診療情報の提供に関する指針」にもとづき、検査内容、検査結果の提供に向けて、検査の標準化を推進しなければなりません。
そのほかに、検査室から他部署への情報提供などを含めた臨床検査コンサルテ-ション業務を具体化することは、今後の重点強化課題となるでしょう
(1) 効率的、機能的業務であること(経済的、医療的)
経済的な側面、医療的な側面は相反することも多いと思われますが、現在の医療情勢の中では両面を求められています。そのためには業務の効率性、機能性を追求し、検査の質を落とさない業務改善が必要です。バリアンスの少ない良質なクリティカルパス作成のため、検査室として積極的な参画も求められます。
また、患者に対しての病態に応じた的確な検査指示がなされているか、重複した無駄な検査依頼がないのかなど検証することを支援していくことも、我々の業務ではないでしょうか。
(2) 医療過誤、事故を防止できること
各部署においてインシデントレポ-ト等を作成し、そのレポ-トが公式文書として通用しなければなりません。そのデ-タを蓄積・解析し、医療(検査)過誤・事故の原因追求をおこない、ミスを繰り返さないための運用マニュアル作成に結びつける必要があります(院内感染対策や輸血運用を含めて)。
(3) 臨床的価値の高い業務であること
検査依頼に対し正確かつ迅速に報告することはもちろんですが、デ-タに臨床的付加価値をつけて報告することも我々の業務に含まれています。具体的には、診断を決定し得るデ-タでかつ理解しやすいデ-タが要求されています。このような診療支援システム(コンサルテ-ション)構築のためには、検査デ-タの一元化をおこない、有効活用することが重要でしょう。
(4) 情報開示に耐え得る良質のデ-タを供給すること
政策医療の実施やカルテ開示、電子カルテ化に対し検査の標準化が求められていますが、標準化の前に検査デ-タの精度保証をしなければなりません。精度保証のためには、検査方法や精度管理の標準化が必要となります。精度管理手法や基準などは様々であり客観的判断は現状として乏しいともいえます。この客観的判断をする材料、すなわち基準を設定しなければなりません。
また、これらの検査デ-タは必要最低限でかつ標準以上のものが要求されます。
(5) 検査部門の存在意義を確立出来る業務内容であること
『医療法等の一部を改正する法律案の概要』において、「給食施設、臨床検査施設については、法律上の規制はそのままとするが、外部委託する場合の要件を緩和。〈省令〉」という一文が入っています。これは、平成12年10月1日より施行の予定となっています。中央検査部門の解体がますます具体化しようとしている情勢ですが、我々が病院の中で本当に必要とされているのか、また必要と認めてもらうためにはどのようにしたら良いのかと、かなりの難作業が予想されます。上記(1)~(4)の各項目を踏まえた上で、我々の本来業務を見直し新しい試みを取り入れていかないと、検査技師に将来はない!と断言できます。
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