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臨床検査に触れていただくコーナー② ~検体の取扱いについて~ 2009年11月作成 [Gam's Channel]


【はじめに】
 皆さん、こんにちは。臨床検査技師長の新井です。着任した時には新緑の候だったのですが、季節は移り変わり、すっかり冬となりました。今年の冬は例年と異なり、季節型インフルエンザは影を潜め、新型インフルエンザが猛威をふるっています。ワクチン接種も勿論のことですが、「感染を未然に防ぐ」ことが一番大切なことです。既に皆さんもご承知のスタンダードプリコーション、いわゆる標準予防策ですが、「患者の血液・体液や患者から分泌排泄される湿性物質(尿・痰・便・膿)、患者の創傷、粘膜に触れる場合は感染症の恐れがある」とみなして対応する方法、と定義されます。一番大切なことは、これら感染の可能性のあるものに触れる時には直接触れないようにする、もし触れてしまったら正しい方法で手洗いを行う、ことです。人からもらわない、またうつさない、を常に意識していきたいですね。

 臨床検査は、検体検査にせよ生理検査にせよ、全ての業務において非常に危険な作業と向き合う業務です。また非常に広い分野をカバーしていますので、色々なお話が今後も出来ればと思います。


【ちょっと雑学:精度管理は検体の採取、取扱いから】
 前回は基準範囲と正常範囲の違い、検査データには生理的変動がある、と言うことをお伝えしました。今回は少しだけ「精度管理」に触れ、その管理の中には検体の採取方法や取扱いが含まれるということをお伝えしたいと思います。さて、皆さんは、「精度管理」とはどのようなものかご存知でしょうか?

 「精度管理」とは、非常に簡潔にいうと、「検体測定に際して、その測定結果が正しい値となるように管理するもの」です。精度管理には「内部精度管理」と「外部精度管理」があります。「内部精度管理」は主としてどの程度精密に測定できているか、「外部精度管理」は他の施設と比較してバラツキなく測定できているか、ということを主たる目的としています。「外部精度管理」のもっとも有名なものに、年1回開催される「日本医師会臨床検査精度管理調査(
http://www.jmaqc.jp/index.php)」があり、平成21年度は第43回目開催となります。医療業界で唯一ともいえる医療の質を点数で表すものです。

 ではタイトルにも書きました、「精度管理は検体の採取、取り扱いから」についてお話を進めます。

 採血時におけるお話はまた別の機会としまして、血液を採取したあと検査値はどのように変化していくのか、について述べてまいります。

 血液の成分は、赤血球や白血球など細胞成分と、血清もしくは血漿など液状成分とに分けられます。この細胞成分と、液状成分とでは、検査項目により含まれている濃度・量が異なるため、血液の取り扱い方によって、検査項目の測定値に差を生じます。この内容については後ほど実例を含めてご説明いたします。


スライド19.jpg


 上図に示しますように、検査項目によっては、放置する環境によって測定値が変化してしまいます。例えば、多くの酵素項目は蛋白成分で出来ていますので、熱に弱く、血液を採取したあと冷蔵保存、冷凍保存をしないと、蛋白成分が変化を起こし、その結果測定値が下がったりします。また血液中の酸素や二酸化炭素を測定する検査では、空気中にさらすことにより空気中の酸素や二酸化炭素を取り込み、測定値が変化します。黄疸の指標となるビリルビンは、光、特に紫外線により分解される性質を持ち、光を遮らないと測定値が下がります。新生児黄疸などで光線療法(紫外線療法)などを行うのは、ビリルビンの性質を逆に利用したものです。

 次に血液中のブドウ糖、いわゆる血糖値について具体例を挙げてご説明します。

 一般的に血液検査というと、静脈採血によるものが大部分ですが、血液ガスなどに代表される動脈採血を行う場合や、自己血糖測定などの場合、指先や掌から採血を行う場合があります。


スライド20.jpg


 上図に示しますように、血糖値は、動脈血の方が静脈血よりも血糖値は高いとされます。これはご説明を簡略化すると、動脈は栄養や酸素等を末梢組織に運搬するパイプラインであり、静脈は老廃物や二酸化炭素等を運搬するパイプラインだと言えます。すなわち、動脈の血糖値≒静脈の血糖値+末梢組織で消費した血糖値 ということになり、動脈と静脈の濃度差が生じます。ですから、指先や掌の血糖値は動脈の血糖値と静脈の血糖値の間ということになります。

 また細胞成分中いわゆる赤血球中のブドウ糖濃度と、液状成分いわゆる血清(血漿)中のブドウ糖濃度では差があります。一般的に血清(血漿)中ブドウ糖濃度よりも赤血球中ブドウ糖濃度の方が低いため、全血中ブドウ糖濃度の方が血清(血漿)中ブドウ糖濃度よりも低くなります。


スライド21.jpg

 

 血液中のブドウ糖濃度は全血のまま放置すると、時間経過とともに低下してきます。これは赤血球中の酵素がブドウ糖を分解消費することが原因です。

 このブドウ糖濃度低下を防ぐためには、大きく分けて二つの方法があります。一つ目は、採血後直ちに赤血球と液状成分を分離してしまうこと。二つ目は、赤血球中の酵素を妨害(阻害)するような薬剤を添加することです。一般的には二つ目の方法が取られていることが多いと思われます。


【後記】
 ブドウ糖を具体例としてご説明をしましたが、検査項目の特性を知ることは、検査値の質向上に対し直接的に関係することとなります。「精度管理は検体の採取、取り扱いから」というテーマの意味がお分かりになったことと思います。これからも臨床検査技師の視点で多くの有益な情報をご提供してまいります。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。


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